グリストラップのメンテナンス方法を調べていると、弊社が行っている「バキューム清掃」のほかに「石けん化工法」「曝気(ばっき)装置」というメンテナンス方法を見かけることがあります。
いずれもバキューム清掃に比べて価格が安く、メンテナンスが簡単と説明されているため、バキューム清掃よりも優れているように感じるかもしれません。
しかし、石けん化工法や曝気装置には落とし穴があります。
石けん化工法と曝気装置の落とし穴
石けん化工法
石けん化工法とは、簡単にいうと「グリストラップに薬剤を投入し、油脂を石けんにして排水する」という方法です。
油脂を含んだ状態では産業廃棄物になるため排水することは出来ませんが、油脂を石けん水に変えることで無害化し、産業廃棄物ではない状態にすれば排水できるうえ、産業廃棄物処理費用を抑えることができる。
さらに、排水は「石けん水」なので、排水管は汚れるどころかきれいになり、微生物が分解できて環境に優しいという、夢のような話です。
しかし、実際にそんなにうまくいくものでしょうか。
小中学生向けの実験に「塩酸と水酸化ナトリウムを反応させて食塩水を作る」というものがあります。塩酸と水酸化ナトリウムは劇薬ですが、食塩水は無害ですので人間が飲んでも問題ありません。
では、濃度などもわからない塩酸に、水酸化ナトリウムを量りもせず入れて適当に攪拌して作った食塩水を「無害だから飲め」といわれて飲むことはできるでしょうか?
おそらく、飲めるという人は少ないでしょう。塩酸や水酸化ナトリウムが残っているかもしれないからです。
グリストラップの石けん化工法は塩酸と水酸化ナトリウムの「中和」とは異なる化学反応ですが、「量もわからず、さまざまな種類が混ざっている状態の油脂に、適当な量の薬剤を混ぜる」という点を考えると、その効果には疑問を感じざるを得ません。
薬剤の種類や量、油脂の量によっては、すべて石けん化できるかもしれません。しかし、ほとんどの場合、油脂は廃水のなかに残ったままです。
廃棄物処理法に抵触しない基準にはなるかもしれませんが、「環境に優しい」という状態ではなく、廃水内に残った油脂はそのまま排水管に付着するため「排水管内がきれいになる」ということもありません。
曝気装置
曝気装置とは、グリストラップの下に空気が噴出する管を設置し、そこからオゾンやバイオを出すことで油脂を分解するというもので、オゾン発生装置、バイオ発生装置、エアレーション装置などの名前で呼ばれることもあります。
オゾンは生活排水の処理にも利用されており、油脂はもちろん様々な有機物を分解する能力を持っています。オゾンを発生させる曝気装置にも効果が期待できると感じるかもしれません。
ではなぜ、「家庭用オゾン発生器」のような商品が売られていないのでしょうか。
オゾンは空気に紫外線を照射したり、酸素中に電気を流したりすることで発生させることができます。
しかし、いずれの方法でも大きなエネルギーが必要となり、家庭から出る油を分解するだけで小さな変電所が1つ必要になるといわれています。
曝気装置に取り付ける「オゾン発生装置」に、グリストラップに溜まる油脂をすべて分解できる能力があるかどうかは、もはや考えるまでもないでしょう。
また、バイオの力を使う曝気装置についても、効果にはかなり疑問が残ります。
微生物による排水処理は「活性汚泥法」という名前で下水処理に利用されている方法ですが、この方法ではさまざまな種類の微生物を混ぜた泥を使うため、曝気装置とは内容が異なります。
また、微生物は種類によって好む環境や活発に活動できる環境、分解できる物質の種類も異なります。
活性汚泥法では幅広い有機物に対応できるよう、原生動物だけで200種以上の微生物が使用されていますが、曝気装置では一体どのような微生物をどの程度使用しているのかわかりません。
どのタイプの曝気装置でも、使用するとグリストラップ表面の油脂は消えるため、油脂が分解されているように見えます。
しかし実際は、水と強く攪拌することで油脂が見えなくなっているだけで、分解されているとしてもわずかな量にすぎません。
曝気装置を使うと油脂がそのまま排水管に流れ込むだけではなく、グリストラップの底にたまるはずのスカムも一緒に流れ込んでしまいます。
まとめ
「バキューム清掃」は、コストも高くメンテナンスが面倒に感じるかもしれません。
しかし、昔から現在まで多くの業者が利用しているのは、なんといっても「確実」だからです。
「バキューム洗浄は古い方法」「バキューム洗浄は高くて環境に優しくない」「新しい手法は安くて手軽でエコロジー」などといわれると、バキューム洗浄以外の方法がよいと感じてしまうかもしれませんが、バキューム洗浄が今でも多くの業者に採用されているのは、それなりの理由があります。
「バキューム洗浄以外は効果がない」とは言えませんが、期待しているほどの効果がない、もしくは場合によってはトラブルの原因になる可能性がありますので要注意です。